多くの労働災害防止啓発資料が転倒リスクの軽視を前提として作成されている一方,労働者が労働災害,ことに転倒のリスクについてどのように認識しているかのデータは乏しい.そこで我々は,小売業の労働者324名を対象にオンライン労働災害意識調査を実施し,労働災害で休業・死亡するリスクがどのように認識されているかを検証した.質問紙では参加者の属性を尋ねたほか,転倒を含む労働災害5型(「転倒」・「交通事故(道路)」・「切れ,こすれ」・「転落,墜落」・「動作の反動,無理な動作」)について休業や死亡に至る可能性の見積もりを求めた.統計解析の結果,転倒の可能性評価値は他の労働災害のそれと有意に異ならず,また,転倒に限らず5種すべてについて3割程度の参加者は休業・死亡可能性をゼロと回答していた.一方,可能性評価値と実頻度とを標準化し比較したところ,転倒による休業可能性が実頻度に比べ特に過小評価されていた.参加者の属性との関連については,年齢が高いほど転倒による休業・死亡可能性評価値が高くなる傾向がみられた.この研究が示唆するのは,啓発資料の訴求力を上げるには転倒で休業する実頻度が予想より高いと伝えることが重要ということである.ただし,この調査は小売業労働者の労働災害意識に限られた内容であり,今後,第三次産業の他分野への展開や,可能性評価が低いと不安全行動を選びやすいかの検討が求められる.
Yabe et al. (Thu,) studied this question.