本研究は、非構成的イディオム的構文と類義の構成的構文の使用の差異を、コーパスデータの定量分析により調査したものである。調査結果に基づき、イディオムが類義の構成的形式より選好される動機を推論した。研究方法として、7 組の類義のイディオムと構成的表現のペアを対象に、The Corpus of Contemporary American English (COCA) フルテキストデータから用例を抽出した。これらの用例に対し、形態論、統語論、意味論、語用論、ジャンルの特徴をタグ付けし、比較分析を実施した。分析結果から、以下の全般的傾向が明らかになった。 (1) イディオムは構成的表現より出現頻度が低い (2) イディオムはカジュアル(インフォーマル)な使用域で使用される傾向がある (3) イディオムは一人称主語と共起する傾向がある 対照的に、構成的形式は、三人称主語を用いて客観的事実を描写する際に、フォーマルな文脈で使用される傾向が観察された。 個別表現に関しても特筆すべき知見が得られた。例えば、sleep with the fi shes(ʻ殺されているʼ)は話者や聞き手を指示する際にドラマジャンルで頻出し、cut the mustard(ʻ満足な仕事をするʼ)は無生物主語と否定極性で選好される傾向が認められた。 これらの結果は、イディオムと構成的表現の使用の差異が、イディオムの二重性(字義的意味と慣用的意味の共存)に動機づけられていることを示唆している。この二重性は、対話者に複雑な百科事典的知識を喚起させるからである。 本研究の知見は、Nunberg, Sag and Wasow (1994: 493) のイディオムのインフォーマル性、Gibbs (1990: 430-437) のイディオムの二重の意味と部分的マッピングがその特異性に影響するという仮説、および Traugott and Trousdale (2013: 20) の非構成的形式の有標性に関する主張を支持するものである。
Hidetoshi INOO (Fri,) studied this question.